幹細胞による細胞移植医療(再生医療)が期待される中、実際に臨床での対象疾患に対して利用可能な細胞の種類が増え、どのような選択がよいかその判断基準となる安全性や有効性の評価が重要となってきている。我々はこれまでに心疾患に対する羊膜由来細胞を用いた前臨床研究として大動物(ブタ)モデルによる安全性/有効性評価について検証を進めてきた。羊膜は医療廃棄物として処分される胎児関連組織の一つであり、免疫学的にも特殊な性質を有し、心筋への分化能が高く心筋再生医療の細胞ソースの一つとして期待がもたれている。 本年度は、昨年度までに確立したブタ羊膜由来細胞を用いて、心筋虚血モデルブタへの移植を試み、移植4週間後における心機能評価を行った。その結果、羊膜細胞移植群(5匹)はコントロール群(生理食塩水移植;4匹)と比較し、心機能の改善効果を認めた。次に移植細胞の心筋組織中の動態を明らかにするため、GFPトランスジェニックブタ由来の羊膜細胞を樹立して、それを心筋虚血モデルブタに移植したうえで移植4週間後の組織学的検証を行った。移植心筋部位にGFP陽性細胞が認められ、それらの細胞は心筋マーカー陽性を示した。このことは羊膜由来細胞が免疫抑制剤無しに生着し、心筋分化したことを示している。しかし心機能の改善を十分説明できるほど多くの細胞が生着していたとはいえず、むしろ周囲の細胞が移植細胞の影響により心筋の再生に寄与したとも考えられる。実際羊膜細胞移植群では虚血部分の心筋組織の繊維化が抑制されていた。 本研究において大動物モデルによる細胞移植における安全性や有効性を評価・検証する基盤を確立できたといえる。今後の臨床研究にむけて、移植細胞の中長期的な動態を追跡し、生理機能の持続効果を検証していく必要がある。そのためには細胞の生着率向上を目指した移植法や移植後の細胞のイメージング技術などの開発も同時に求められる。
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