研究概要 |
マウス主要組織適合性抗原ミスマッチペア(BALB/c, C57BL/6)を用い実体顕微鏡下に同所性気管移植を行った。術後、著しい炎症細胞浸潤・上皮の偽重層化→上皮細胞の剥離→炎症鎮静化・気道上皮扁平化→気道上皮下の線維化が完成、という一連の経過が観察された。術後2日目~10日、14日、28日目の各移植片に上皮系マーカーであるE-Cadherin、間葉系マーカーであるα-SMAの免疫組織染色を施行したところ術後7日目(移植片全体の炎症細胞浸潤と上皮の偽重層化が最も著しい時期)の移植片において上皮内α-SMA陽性細胞の出現とその細胞におけるE-Cadherinの減弱が認められた。このことは上皮が傷害を受けた頃に上皮間葉移行(EMT)が起こる可能性を示唆していた。 この結果を得て我々は移植気道の線維化におけるEMT関与の可能性を別の方法で示したいと考えた。線維化の主役は線維性物質を産生する線維芽細胞である。移植気道の線維化においてはこの線維芽細胞の起源がEMTを介したドナー上皮細胞であるのかもしくはレシピエントの骨髄由来間葉系細胞であるのかという点において長らく議論があるのだが、異系移植ペアの一方にgreen fluorescent protein(GFP)全身発現マウスを用いることにより線維芽細胞がドナー由来かレシピエント由来かを組織学的に解明することとした。C57BL/6のGFPマウスとnaïve BALB/cマウスのペアで同様の移植を行い術後28日目の気道上皮下線維化層におけるGFP発現の有無を調べた。結果、この検討においては線維芽細胞の大半はレシピエントに由来することが判明した。前半の経時的変化の組織学的検討より上皮と間質の間にはcross-talkがあると考えられるが、最終的な状態においての線維芽細胞はレシピエント由来のものであることが本研究より明らかとなった。
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