研究課題
平成23年度は、マイクロRNAの中でも、miR-34sというマイクロRNAに注目し、解析を行った。miR-34sは腫瘍抑制性のmiRNAで、TP53遺伝子の転写標的で有り、近年他の癌腫で研究が進んでいる。TP53遺伝子変異は種々の癌で確認されているが、悪性中皮腫ではTP53遺伝子変異は認められない。しかし、p53蛋白の機能低下は確認されていることから、miRNA-34sの異常が予想される。そこで我々は、miR-34sのメチル化解析を進めた。miR-34sはmiR-34a,miR-34b,miR-34cの3つのmiRNAから成るが、悪性中皮腫細胞株及び手術検体でこれらのmiRNAのメチル化の頻度は、miR-34aが細胞株で33.3%(2/6)、手術検体で27-7%(13/47)で、miR-34b/cが細胞株で100%(6/6)手術検体で85.1%(40/47)であった。miR-34sがメチル化されている全ての細胞株でmiR-34sの発現が低下しており、脱メチル化により発現が回復した。miR-34b/cのメチル化は悪性中皮腫において高頻度であったため、miR-34b/cの機能解析を行った。悪性中皮腫細胞にmiR-34b/cをトランスフェクションさせると、抗増殖効果を認め、細胞周期G1期で停止していた。また、遊走能・浸潤能・運動性が抑制された。さらに、miR-34b/cを過剰発現させることにより、アポトーシスが誘導され、抗腫瘍効果を認めた。また、miR-34b/c過剰発現により、悪性中皮腫細胞の放射線治療に対する感受性が増大することも確認している。以上の結果から、miR-34b/cのメチル化による発現抑制は、悪性中皮腫における極めて重要なエピジェネティック異常であり、悪性中皮腫の腫瘍形成に重要な役割を果たしていることが示され、またmiR-34b/cは悪性中皮腫の新たな治療標的となり得ることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
上記9.欄に示したように、悪性中皮腫におけるマイクロRNAの異常と、その機能的意義についての解明が進んでおり、交付申請書に記載した研究計画は順調に進展していると考える。
悪性中皮腫細胞において今回解析したマイクロRNAの機能的意義が確認されたので、悪性中皮腫モデルマウスでの抗腫瘍効果の検討を進める。マウスでの検討によりマイクロRNAの抗腫瘍効果が証明されれば、本マイクロRNAを治療標的とした新規治療法を開発することへ繋がる。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Clin Cancer Res
巻: 17(15) ページ: 4965-74
doi:10.1158/1078-0432.CCR-10-3040