癌細胞はその増殖に伴い低酸素ストレスにさらされるため、転写因子HIF-1を介して、細胞膜にGlut-1 を発現させ、低酸素下でのエネルギー産生可能な解糖系代謝を促す。FDGはGlut-1を介して細胞内に輸送され、PET画像に反映される。本研究は細胞低分子動態解析法を用いて、低酸素や抗癌剤治療などのストレスにより癌細胞内に起こるFDGの蓄積を観察し、低酸素関連因子発現や浸潤増殖能との相関を観察することにより、肺癌の悪性度評価に対するFDG-PETの可能性を明らかにすることを目的とした。 肺腺癌70例、扁平上皮癌24例、計94例を対象とし、免疫組織化学的染色を行い、低酸素環境下に誘導されるHIF-1、Glut-1の発現を定量的に示した。HIF-1、Glut-1発現とSUVmax、脈管浸潤、リンパ節転移、再発率は、腺癌症例にて相関が認められたが、扁平上皮癌では有意な相関は認められなかった。非小細胞肺癌、特に腺癌において低酸素環境下に誘導されるHIF-1、Glut-1発現は腫瘍の増殖能、悪性度の強力な指標となることが示唆された。 また癌細胞内での低酸素、抗癌剤ストレスによる低酸素関連因子の変化を観察するため、5-FU感受性が異なる2種類のヒト癌細胞株を樹立した。これらの癌細胞株に5-FUを曝露したのち、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)を用いて経時的に細胞内の低分子動態を網羅的に一斉解析し、5-FUの細胞死誘導にプロリン-グルタミン酸代謝が密接に関連していることを見出した。これらの代謝を媒介するPRODH発現量をRT-PCRを用解析したところ、耐性株で優位に低値であり、superoxide産生も減少することを確認した。今後、細胞低分子動態解析法による癌の浸潤増殖のメタボローム解析が進めば、新たな関連因子の発見が期待される。
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