我々は同程度の喫煙歴があるI期非小細胞肺癌完全切除症例を検討し、肺気腫合併症例は術後死亡率・再発率が有意に高いことを示した。前年度の基礎研究で、肺気腫肺で高発現のMMP-2(潜在型)が3LL細胞膜上のMT1-MMPを介し、MMP-2自身を活性化する可能性を示唆できた。今年度はヒト肺切除標本を利用し、検討を行った。臨床病期I期の原発性非小細胞肺癌48例を対象とし、術前CTで肺気腫を診断し、肺気腫群と非肺気腫群に群分けし、肺癌とその周囲の肺組織を免疫組織化学染色で評価した。その結果、腫瘍細胞のPCNA陽性率、腫瘍内のCD105陽性血管密度は肺気腫群で有意に高値であった。腫瘍細胞、腫瘍間質細胞のMMP-2(潜在型)、MMP-9とMT1-MMPの発現について評価し、染色強度は4段階にスコア化した。全患者における腫瘍細胞におけるMMP-2、MT1-MMPそれぞれの染色強度の間には正の相関関係を認めた。肺気腫群ではMMP-2 Score1(低スコア)の割合が有意に少なく、MMP-2 Score2、3(高スコア)の割合が多かった。MT1-MMPの染色強度の割合に差はなかった。また腫瘍間質細胞では肺気腫群で、MMP-2(潜在型)とMMP-9の染色強度が有意に高かった。肺気腫に生じた肺腫瘍では腫瘍進展の促進に寄与するMT1-MMP/MMP-2 axisが刺激され、肺腫瘍進展が促進する可能性が示唆された。
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