脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者の予後を改善するためには、脳血管攣縮の予防や治療だけでは不十分で、脳動脈瘤破裂による脳損傷そのものに対する対策が必要である。我々は既にマトリックス細胞蛋白の1つであるオステオポンチン(OPN)がくも膜下出血後の脳で誘導され、脳保護効果を示すことを明らかにした。本研究ではラットのくも膜下出血モデルを用い、OPNの脳保護効果の機序を血液脳関門保護効果に焦点を絞り明らかにした。また、OPN以外のマトリックス細胞蛋白がくも膜下出血後の脳損傷に関与するか調べた。 その結果、① OPNはくも膜下出血後の血液脳関門障害部の新生血管内皮や活性化されたグリア細胞を中心に遅発性に誘導されること、② OPN siRNAのくも膜下出血前投与は内因性OPNの発現をほぼ完全に抑制し、mitogen-activated protein kinase (MAPK)、NFκB、 MMP-9を活性化させ、血管基底膜やtight junction蛋白のdegradationをおこすことにより血液脳関門障害を増悪させること、③ 合成 OPN蛋白のくも膜下出血前投与はRGD依存性インテグリンを介しMAPK、NFκB、MMP-9を不活性化させることにより血液脳関門障害を抑制すること、④ 別のマトリックス細胞蛋白であるテネイシンCは主にグリア細胞に誘導され、脳損傷を引き起こすこと、が明らかになった。 以上より、2つのマトリックス細胞蛋白、OPNとテネイシンCがくも膜下出血後の脳に対し異なる作用を示すことが明らかになった。すなわち、OPNは脳保護作用を示し、テネイシンCは脳に対し有害作用を示した。これら2つのマトリックス細胞蛋白の発現をコントロールすることにより、くも膜下出血後脳損傷に対する新しい治療戦略が開発できる可能性があり、更に研究を進める価値があると考える。
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