研究概要 |
本研究では,我々が開発してきた有限要素法を用いた三次元脳変形解析モデルと力覚発生装置を融合させることで,仮想手術器具を介した脳モデルへの手術操作に伴う力覚(応力)呈示が可能な手術シミュレーションシステムを構築することを目的とした.変形解析モデル高速化に取り組んだ平成22年度に引き続き,平成24年度には反力発生装置における出力の質的評価を行った.12名の脳神経外科専門医(臨床経験年数の平均15.2年)を対象に,トレーニングシステムで脳べらによる左小脳半球の圧排操作の評価を行った.評価項目は,視覚評価4項目,力覚評価1項目,機能評価3項目の計8項目で,各項目について5段階評価とした.その結果,力覚評価の平均値が最も低く,続いて視覚評価で小脳と脳神経系が低評価となった.標準偏差については,機能評価での器具の切り替えと術野の拡大・縮小に続いて,力覚評価で大きい値となった.力覚評価ではスコア1(本物に近くない)が2名,スコア2(どちらかというと本物に近くない)が6名となっていて12名の評価者の内8名が力覚評価において低い評価を行った.力覚評価において低い評価を行った評価者のコメントでは,「圧排時の感覚がやや軽すぎる」や「圧排時の抵抗はあまり感じなかった」などの指摘があった.一方,評価者の臨床経験年数と力覚評価のスコアをプロットした検討から,経験年数が増加するに従ってスコアが低下する傾向が認められた.このことから,経験年数が長い熟練した専門医ほど,実際の手術時の圧排の手応えと力覚提示装置で生成する手応えの差を敏感に識別している可能性が示唆された.本シミュレーション装置の根幹となる脳の手応えに関して,これまで実験データに頼っていた材料常数であるが,実用化に向けて実地医の感とは乖離があることが判明した.
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度には,二系統の力覚発生装置からの二系統入力への対応が行えるようにする.具体的には,これまで一系統であった力覚発生装置を二系統とし,両手での操作を模倣したシミュレーションを可能とするようにする.また,本年度の質的評価での結果,視覚的評価の向上が必要であると結論づけられため,これまでの二次元表示を三次元表示に改良することで視覚的評価の向上を目指す.
|