研究概要 |
近年年脳虚血の病態機構に免疫系の及ぼす影響の重要性が認識されるようになっている(Nat Med.17:796-808, 2011)。即ち、脳虚血も炎症の1つであり、脳虚血に伴う組織障害により引き起こされる炎症反応が、脳虚血の病態機構に重要な影響を及ぼすと考えられている。炎症の主要なメディエータとしてヒスタミンが知られており、ヒスタミン等の活性化アミンの分解・排出に関与する物質としてOrganic cation transporter(=OCT)が同定された。このうち、特にOCT3はヒスタミンの分解・排出にかかわる分子として知られている(J Exp Med 202:387-93, 2005)。更にヒスタミンにはTregを誘導する作用があることが明らかとなった(J Immunol 178:8081-8089, 2007)。そこで本研究ではOCT3のノックアウトマウスを用いて、脳虚血と制御性T細胞、及びヒスタミンとの関係を詳細に検討した。その結果OCT3をノックアウト(=KO)したマウスでは、野生型(=WT)マウスに比して、虚血側大脳皮質や血清のヒスタミン濃度は虚血後24時間目には有意に高く、脳梗塞量も有意に減少した。更に血清中の制御性T(Treg)細胞比率はKOマウス群で虚血後24時間目には有意に上昇していた。そしてWTマウスにヒスタミンの前駆体であるL-ヒスチジンを投与したところ、大脳皮質及び血清のヒスタミン濃度には変化が見られず、血清中のTreg細胞比率も変化しなかった。一方KOマウスではL-ヒスチジンの投与により、大脳皮質及び血清のヒスタミン濃度が上昇し、Treg細胞比率も上昇した。以上のデータより、組織ヒスタミン濃度はTreg細胞細胞比率と関連しており、脳虚血時に見られる、Treg細胞比率の減少を改善することで、脳虚血障害を改善しうることが明らかとなった。
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