脳は免疫学的寛容の場として知られ、抗原提示が不十分であると同時に、免疫担当細胞の集積を得づらい組織である。したがって、皮下ワクチンなどによって腫瘍特異的な細胞障害性Tリンパ球が誘導されても、十分な治療効果を得ることが困難であった。我々は、センダイウイルスベクターが抗原提示細胞に対して強力なアジュバントとして作用することを証明してきた。今回、ウイルスタンパクのうち、出芽に必要なMタンパクを欠失させ(SeV/△M)、細胞融合に必要なFタンパクをグリオーマ細胞において高発現が確認されているurokinase-type plasminogen activator (uPA)によって開裂し活性型となるように改変した新規の腫瘍融解ウイルスを作製した。このウイルスベクターはグリオーマ細胞を含む種々のがん細胞に細胞融合とそれに引き続くアポトーシスを効率よく誘導した。さらに、種々の免疫反応を増強する作用を有するインターフェロンβ(IFN-β)遺伝子を搭載することにより(SeV/△M-IFNβ)、遺伝子導入効率を損なうことなく樹状細胞を強力に活性化することを証明した。これを9L-gliosarcoma細胞によるラット脳腫瘍モデルの脳腫瘍局所に投与すると100%の治癒が得られた。また、Standard^<51>Cr release assayにより、腫瘍特異的細胞障害性Tリンパ球が通常の皮下ワクチン療法よりも強力に誘導されていることが示された。免疫学的寛容の場である脳においても、センダイウイルスを活用することにより強力な抗腫瘍免疫が誘導されることが示された。今後、本治療システムによる免疫機構活性化の評価およびその分子背景を明らかにすることを目指す。
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