成体の脳の海馬歯状回顆粒細胞下層と脳室下帯に存在する神経幹細胞からの新生神経細胞に、脂肪酸結合蛋白(FABP)が強く発現していることから、この蛋白が神経新生に関与していることと、転写因子であるPax6がFABPを制御し、その調節に重要な役割を果たしている事も報告されている。成体脊髄においても、脳と同様に中心管周囲脳室上衣層より神経幹細胞が分離されており、脊髄損傷後に神経新生が亢進することが示されていることから、本研究では、成体の脊髄損傷後の神経新生におけるFABPの機能とその制御因子について検討することを目的とする。 平成22年度は、脳型FABP(B-FABP)と上皮型FABP(E-FABP)の遺伝子をノックアウトした2種類のマウスと、正常の野生型マウスの脊髄において、FABP遺伝子欠損が脊髄神経発生に関してどのような異常を起こしうるか検討した。結果、野生型マウスの方が、ノックアウトマウスに比べ、神経新生が起きている傾向を認めたものの、明らかな有意な差は認められかった。また、マウス脊髄損傷モデルについては、顕微鏡下にclipにて圧迫損傷を加えるモデルを種々の条件で作成した。野生型マウスで、脊髄損傷後3日目に5-bromo-2-deoxyuridine-monophosphate(BrdU)を50mg/kg腹腔内投与し、同日灌流固定して、BrdUの免疫染色をしたところ、BrdUで標識された細胞が有意に増加していた。閉鎖圧20g、閉鎖時間30秒のモデルで最もその差が顕著であったため、今後、ノックアウトマウスでもこの脊髄損傷モデルを作成し、野生型マウスと比較して、脊髄損傷後の神経新生の差を検討するとともに、その新生細胞の分化についても比較し、分子生物学的解析ならびに脊髄機能評価も行う予定である。
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