研究課題
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は骨髄中の造血幹細胞を末梢血中に動員する作用を持つ。脊髄損傷モデルにG-CSFを投与すると末梢血中に動員された造血幹細胞が損傷脊髄内にも入り生着するがその数は少ない。そこで、G-CSFで末梢血中に動員された造血幹細胞を回収・濃縮して損傷脊髄内に移植することで治療効果を高められるのではという着想に至り本研究を開始した。その結果、マウス脊髄損傷モデルにおいて、G-CSF動員末梢血単核球、CD34^+末梢血幹細胞を損傷脊髄内に移植すると移植後6~8週の後期において行動学的に有意に改善がみられ、移植8週の時点で移植細胞は一部わずかに残存し、血管系細胞への分化が示唆された(昨年度報告)。そこで本年度は移植後早期における移植細胞の生着率、分化の程度を検討した。雌NOD/Scidマウス(9週齢)を全身麻酔下に椎弓切除し、IH impactorを用いて第9胸髄に圧挫損傷を加えた(60kdyn)。脊髄損傷後1週に、M群にはヒト由来G-CSF動員末梢血単核球細胞(CD34細胞純化なし)、CD34群にはヒト由来G-CSF動員CD34^+末梢血幹細胞をそれぞれ1.0×10^5個損傷部に直接移植した。コントロールとしてC群には溶媒のみを注入した(C群)。これら3群において移植1週、4週においてマウスを屠殺し、脊髄矢状断組織切片を作成して組織学的検討を行った。抗ヒトミトコンドリア抗体にて染色を行うことで残存する移植細胞をCountし、さらに血管系細胞マーカーとの二重染色により移植細胞の分化につき検討した。移植後1週の検討では、移植細胞は損傷部より約2mm頭尾側まで広範に残存しており、これらはVon Willebrand Factorで二重染色される血管系の細胞へと分化し、移植後4週でも移植細胞は、生着率はやや落ちるものの損傷髄内に残存しており、やはり血管系細胞へ分化していた。これらの結果から、損傷脊髄において移植後早期に移植細胞による血管新生の促進効果が示唆された。骨髄単核球細胞は他疾患において既に臨床応用が始まっており、脊髄損傷に対する細胞移植の臨床応用が期待される。
2: おおむね順調に進展している
細胞移植群において有意な行動の改善が得られており、また免疫組織学的検討でも移植細胞の生着、血管系細胞への分化がみられている。他疾患においてもCD34^+末梢血幹細胞は組織の血管新生促進とそれによる虚血の改善を認めると報告されているが、本研究の脊髄損傷モデルにおいても同様な結果が得られている。
他の虚血性疾患(下肢虚血性疾患、急性心筋梗塞、脳梗塞)においてはG-CSF動員末梢血幹細胞の治療効果は基礎実験において証明され、既に臨床応用が始まっている。特に、本学においては循環器内科の方では下肢虚血疾患に対する末梢血由来単核球細胞治療による血管再生療法が臨床で既に行われており、手技的な面からも臨床への応用は比較的容易であると考えている。本研究において急性脊髄損傷モデルにおける治療効果が示されれば、今後は臨床応用に進み、臨床治験を計画する予定である。
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