研究概要 |
IH impactorを使用したマウス圧挫損傷モデル(60kdyn)に対し,スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体作動薬であるFTY720を経口投与した群と,コントロールとしてのDMSO経口投与群の後肢機能回復を比較した.FTY720内服群はコントロール群に比較して有意に後肢機能スコア(BMS score)が高く,この傾向は損傷後6週の最終観察時まで持続した.またロータロッドテストによる歩行時間も,損傷後1週以降でFTY720内服群が長かった.組織学的には,FTY720治療群で炎症性瘢痕の体積が有意に小さく,脱髄の範囲も縮小していた.アストログリア瘢痕の程度もFTY720治療群で減少していた。 同様の脊髄損傷モデルをリンパ球欠損マウス(SCID mouse)において作成し,FTY720内服治療の効果を判定した.野生型マウスの場合よりもコントロール群との差が小さかったが,各種運動機能検査においてFTY720治療群は有意に機能回復が促進されることが確認できた.組織学的にも,FTY720治療群で炎症瘢痕が縮小し,脱髄の範囲も小さかった. 脊髄損傷部におけるIL-1-,IL-6,TNF・などの炎症性サイトカインの発現は,両群間で差がなかった.また脊髄損傷部の炎症細胞浸潤をフローサイトメトリーで定量すると,FTY720治療群でリンパ球の浸潤数が抑制されていたが,好中球やマイクログリアの数には差がなかった,しかし,損傷後24-72時間後の血管透過性は,FTY720治療群で有意に減少していた。 以上の結果は,FTY720が脊髄損傷急性期の治療に有効であること,またその作用機序はリンパ球減少による免疫抑制作用を介するだけではなく,損傷部における血管透過性を減少させて2次損傷を抑制させることが重要であることを示唆している.
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