研究目的は、架橋生体材料を用いた腱板骨移行部の再生過程における維芽細胞増殖因子(FGF-2)局所投与の及ぼす影響を組織学的・分子生物学的に評価することである。(方法)雄SDラットの両側棘上筋に上腕骨付着部を含む欠損(3×5mm)を作成し同サイズ(3×5×0.6mm)のヒト真皮細胞外基質で再建した。フィブリン糊にFGF-2(100μg/kg)を添加したFGF治療群と非治療群を作成した。手術していない肩をコントロール群とした。術後2、6、12週でHE染色・SafraninO染色・EVG染色・偏光顕微鏡所見による腱板骨移行部成熟度を評価した。また、分子生物学的評価としてリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりI型・III型コラーゲンのmRNA遺伝子発現を定量的に評価した。(結果)コントロール群の腱板骨移行部は、腱組織・非石灰化線維軟骨・石灰化線維軟骨・骨の順に滑らかに移行していた。線維軟骨は上腕骨頭軟骨と同じ階層に存在した。術後2週時、両群とも架橋生体材料に炎症細胞と線維芽細胞の浸潤および新生血管を認めた。6週時、両群で新生コラーゲン線維を認め、生体材料は吸収された。FGF治療群は腱骨間に軟骨組織を認めたが、非治療群では認めなかった。12週時、両群でコラーゲン線維は規則的に配列し、FGF治療群は非治療群より成熟した腱・軟骨組織・骨の移行組織形態を呈していたが、コントロール群ほど成熟してはいなかった。2週時のみFGF治療群におけるI型・III型コラーゲンのmRNA遺伝子発現量は非治療群より有意に高かった。(結論)FGF-2は細胞外基質を架橋生体材料とした腱板骨移行部の再生過程を組織学的に促進した。これにはコラーゲン線雑の増加が関与することが示唆された。架橋生体材料とFGF-2を用いた腱板再建法は、新しい有効な治療法として臨床応用が期待できる。今後、コントロール群と比較した生体力学的強度を評価する予定である。
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