人工股関節全置換術(THA)後の静脈血栓塞栓症(VTE)の発生は、間欠的空気圧迫法で予防を行った69例では17例(26.4%)に認め、Xa阻害薬で予防を行った117例では8例(6.8%)に認めた。どちらの群でもVTEが発生した患者群では、術翌日の可溶性フィブリン(SF)、プラスミノゲンアクチベーター阻害蛋白(PAI-1)およびトロンビン・アンチトロンビンIII複合体(TAT)値がVTE非発生群と比較して有意に高かった(p<0.01、 p<0.01、p<0.05)。抗Xa活性によるXa阻害薬の血中濃度測定では、経時的に血中濃度が高くなった(p<0.001)。Xa阻害薬の血中濃度の推移を腎機能障害の有無で比較すると、腎機能障害例では術後3、7、14日目において抗Xa活性値が有意に高かった。またVTE発生の有無で比較した抗Xa活性値では有意差は認めなかった。 本研究では、THA術後のVTE発生に関係する術後早期(術後1日目)の凝固線溶マーカーについて同定した。現在までの結果からは、SFとPAI-1の2つのカットオフ値を用いれば感度100%、特異度65%で術後VTE発生のスクリーニングが可能である。このようなスクリーニング法を用いながら選択的な薬物的予防法を行うことが出来れば、薬物的予防法の副作用を低減させることができるため、意義が大きい。今後、本スクリーニング法を用いて実際の選択的予防法の有効性について検証していく。
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