研究概要 |
まず、初回人工股関節全置換術(THA)170例に対して複数の血液凝固線溶系マーカーを測定し、術後静脈血栓塞栓症(VTE)発生の高リスク症例のスクリーニングに対する有用性を検討した。血液凝固線溶系マーカーは、Dダイマー、可溶性フィブリン(SF)、トロンビン・アンチトロンビンIII複合体、プラスミノーゲンアクチベータインヒビター(PAI-1)を術後1,3,7,14日目に測定し、VTEの有無は、術後1週での造影MDCTにより評価した。その結果、術後1日目のSFとPAI-1の値が術後1週でのVTE発生と最も関連した。ROC解析によるカットオフ値は、SFが19.8μg/ml、PAI-1は56ng/mlであり、両者のカットオフ値を用いた判別は感度100%、特異度67%であった。つまり、術後1日目のSFとPAI-1の2つのカットオフ値を用いれば術後VTE発生のスクリーニングが可能である。 次に、この基準に準じて術後VTE発生のリスクが高い症例をスクリーニングし、選択的な薬物的予防法を初回THA109例に施行した。これらの109例のうち、SFかPAI-1の値がカットオフ値よりも高値で薬物的予防法を施行した症例は59例で、SF,PAI-1ともにカットオフ値以下で理学的予防法のみを行なったのは50例であった。このうちVTEの発生は、理学的予防法を行なった群では1例(2%)で認めたのに対し、薬物的予防法を行なった群では4例(7%)でみられた。またmajor bleedingは、薬物的予防法を行なった群では3例(5%)で認め、理学的予防法を行なった群では1例(2%)で認めた。 これらの結果より、SFとPAI-1を用いたスクリーニングによる選択的予防法は有用であると考える。
|