研究概要 |
軟骨組織は自己修復能が低い。特に軟骨部分損傷(PTI)は自己修復能が低い。全層損傷と比較した場合に骨髄からの細胞が動員されないためと考えられている。しかし、我々は3週齢の幼若ラットでは、PTIを関節運動の向きに作成した場合には硝子軟骨様組織で治癒することを明らかにし、PTIが自然治癒する過程を再現できるモデル動物を確立した。成熟ラットではこうした治癒はみられない。この違いは軟骨に損傷が加わった際のごく早期の軟骨細胞の反応として遺伝子の発現パターンの差による可能性がある。そこで3週齢のラットと成熟ラットの間で、PTIを加えた直後の遺伝子発現を比較し、軟骨を修復に至らしめる遺伝子を抽出し、治療に結びつけていくことが本研究の目的である。そのために、3週齢と16週齢のラットの膝関節にPTIを作成し、治癒の過程の違いを組織学的、遺伝子発現の差異を検討した。その結果明らかとなった事項は以下のようなことであった。①3週齢のラットではPTI作成後24時間の時点で修復組織がすでに形成されていること。②3週齢のラットでPTI作成後12、24時間時に特異的に発現してくるような遺伝子を抽出した。その結果131個の遺伝子が抽出された。得られた遺伝子間の関係をIngenuity Pathway Analysis (IPA) software (Ingenuity systems, Mountain view CA)を用いて解析したところ、5つの遺伝子ネットワークが導き出された。各々のネットワークの中心的な分子を解析した結果、TGF-betaのシグナルを伝達するSmad3がなかでも重要な分子であることが明らかになった。③免疫組織学的検討から損傷軟骨周囲にはリン酸化したSmad3が高率に同定された。
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