人工多能性幹細胞(iPS細胞)は自己の体細胞より作製できるため再生医療の理想的な材料である。これまでにiPS細胞から効率よく軟骨細胞を誘導する方法が充分でないことから、1)ヒトiPS細胞からの軟骨細胞の誘導,2)誘導軟骨細胞の特性解析を実施した。 具体的な研究課題として、1:未分化多能性幹細胞から効率よく軟骨細胞を誘導する方法の開発、2:ヒトiPS細胞およびiPS細胞由来軟骨細胞について機械的ストレスに対する細胞応答の観察、3:誘導細胞における癌化の制御、という3点のテーマに取り組んだ。 研究1について、iPS細胞から高純度に軟骨細胞を得るため、その前駆細胞である間葉系幹細胞(MSCs)を高率に誘導する方法を検討した。平成22年度、平成23年度にヒトiPS細胞から間葉系幹細胞をin vitro、in vivo両方でMSCsを高率に獲得する方法を確立した。次に研究2として、未分化iPS細胞に機械的ストレスを加え、未分化維持分子機構にどのように影響するかを検討した。その結果、機械的ストレスはGTPase Rhoを活性化し、Aktのリン酸化レベルの低下を介して未分化性が低下させることを明らかにした。平成24年度には誘導MSCsと正常ヒトBMMSCsについてマーカー発現等について詳細な比較を行い、iPS由来MSCsはBMMSCsに非常に類似したマーカー発現を示すことを明らかにした。また、誘導MSCsをコラーゲンスポンジ内に包埋し、軟骨分化培地内で分化させた後、周期的圧迫負荷を行った結果、未分化マーカー遺伝子の発現低下を認めた。また、研究3において、ヒトiPS細胞から誘導したMSCsでは、長期の培養で腫瘍化の原因となる細胞が出現すること、CD44/CD73/CD105をマーカーとしたセルソーティングにより、より安全性の高いMSCsを採取できることを見出した。
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