研究概要 |
臨床において認知症患者を麻酔する機会は増加しつつあるが,認知症による全身麻酔作用の修飾は明らかでない.全身麻酔薬作用に及ぼす認知症の影響を検討する目的で,記憶学習障害を来すモデルマウスSAM-P8(16週齢)およびコントロールとしてSAM-R1(16週齢,記憶学習障害なし)を用いた検討を行った. AMモデルマウスは,アルツハイマー病と類似した病理変化を来すことが知られている.麻酔用チャンバーでSAM-P8およびR1に揮発性麻酔薬セボフルランを吸入させたところ,正向反射が失われるまでの時間(LORR)はP8の方がR1よりも短かった.次に海馬スライス標本を用いて電気生理学的検討を行った.マウスを麻酔後断頭して海馬を摘出し,海馬スライス標本を作成した.標本は,Roth教授(海外共同研究者)と共同開発した脳スライス用チャンバーに移し,サーキュレータを用いて37℃に保った.刺激電極および記電極は,マイクロマニピュレーターを用いて操作した.シナプス電位は電気刺激装置を用いて誘発し,小電極増幅器で観察した.実験は除振台上で行った.海馬白板にトレインの電気刺激(n=1-1000)を与えることにより抑制性介在ニューロンからの抑制性シナプス伝達物質(GABA)の放出を促進することができる(Train-protocol).セボフルランはtrain-protoco1によるGABA放出を促進したが,その促進の程度はR1よりもP8においてより顕著であった.認知症患者の全身麻酔においては揮発性麻酔薬の作用が増強する可能性がある.これは認知症におけるシナプス前終末からのGABA放出の促進によると考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
認知症モデルマウスを用いた海馬スライス標本モデルの作製に成功し,シナプス伝達の電気生理学的検討が予定どおり進んでいる.今後は,このモデルを用いて,さまざまな麻酔薬のデータを採取し,結果を解析・考察する.
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