昨年度の研究での妊娠17日目に6時間の1%イソフルランで暴露され、出産した雄の仔マウスの空間認知学習機能は低下し、シナプトフィジン免疫染色性が大脳皮質および海馬で低下し、妊娠10日目での6時間の1%イソフルラン暴露では空間認知学習機能およびシナプトフィジン免疫染色性は変化しなかったことが判明した。 平成23年度は、その機序として、妊娠中の麻酔薬暴露が生後7日目の仔脳の海馬でのBDNF(brain-derived neurotrophic factor)mRNA発現に影響を与えているかどうかを検討した。 方法:イソフルラン暴露はC57BLマウスを妊娠10日、17日目に特製ボックスに飼育ゲージごといれて、麻酔ガスモニター下に酸素濃度50%でイソフルラン1%を6時間吸入させ、対照は50%酸素投与で行った。出生後1週間目に、仔マウスの大脳皮質および海馬のBDNFmRNAをreal time PCRで比較検討した。 結果:大脳皮質でのBDNFmRNAは両群間で差はなかったが、海馬では50%酸素群に比べて、1%イソフラン6時間曝露群で高い傾向にあった。また、妊娠10日目では、大脳皮質および海馬でのBDNFmRNA発現に差はないように思われた。 考察:妊娠17日目の1%イソフルラン6時間暴露でその後の迷路学習機能が低下した機序として、妊娠17日目という胎児の脳の成長期にある時期のイソフルラン曝露が胎児の脳、特に海馬領域に障害を与え、その結果、その障害を修復するためにBDNFmRNAが過剰発現したものと考えられる。これらの結果は昨年の空間認知学習機能の結果と一致する。次年度は、脳の発達時期に受けた障害は、児の社会的環境(外界からの各種の刺激や親の愛情など)を豊かにすることで、脳の可塑性を引き出せる可能性があるとの仮説をもとに、生後7日目に1%イソフルラン6時間暴露を受けたマウス(脳の発達障害が生じている)の離乳後に飼育環境をエンリッチにすることで、脳高次機能障害が回復するかどうかを解析検討していく予定である。
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