研究概要 |
発達期の脳神経細胞における麻酔薬の為害作用は、麻酔臨床上の大きな解決すべき課題である。麻酔薬によるアポトーシス誘導を検討するため、薬剤投与後の神経細胞のカスパーゼ活性を測定した。カスパーゼ活性の測定にはFRETを用いた。FRETプローブであるプラスミドDNAのpFRET-Bidを神経細胞に導入した。カスパーゼ活性によりBidが切断されFRET現象が消失すると、YFP励起光の蛍光強度が減少しCFPの蛍光強度が増大する。この原理を用いてカスパーゼ活性をin-situで可視化することを試みた。 新生仔ラットから大脳皮質を取り出し、0.25%トリプシン/EDTAで処理し、ポリエチレンイミンコーティングした35mmシャーレの血清培地上で培養した。培養5日後にFRETプローブのプラスミドDNAをLipofectamine 2000を用いて神経細胞に導入し、24-48時間後に共焦点レーザー顕微鏡下にて観察・測定した。しかし、pFRET-Bidの導入により測定された蛍光強度は小さく、薬剤投与後の蛍光強度変化をとらえるのが難しいことから、新たにSCAT3.1/pcDNA4-HisMaxBを理化学研究所から譲り受け、実験に用いることにした。SCAT3.1はYFPの部位により蛍光強度の強いVenusを発現させるプラスミドDNAで、この遺伝子導入により蛍光強度が増大しFRET現象が観察された。カスパーゼ活性を誘導する薬剤として選択したプロテインキナーゼ阻害剤のStaurosporineおよびプロポフォールの2,6-Diisopropylphenolの投与は、カスパーゼ分析キットのSulforhodamine FLICA (Fluorochrome Inhibitor of Caspase)を用いて培養神経細胞にカスパーゼ活性を誘導することが確認された。 現在、Staurosporineの投与によるCFPとVevusの蛍光強度変化を経時的に測定している。今後は、より安定した神経細胞の培養条件と細胞障害性の小さい遺伝子導入方法を検討し、麻酔薬によるカスパーゼ活性およびアポトーシス変化の誘導を経時的に観察する手法を確立する。
|