研究概要 |
膝や腰といった運動器の痛みが慢性化する過程には、「動かしたら痛くなる」という恐怖条件付けが関与するという仮説を検証した。運動を条件刺激、痛みを無条件刺激とした恐怖条件付けを行い、運動時の無条件反応を皮膚電位反射(SPR)によって捉えた。被験者が遅延見合わせ課題(モニターに表示された2種類の表示物の一方が長いと判断する)の結果を元にして自発的に右手関節を運動させた場合に、右前腕に54℃の熱刺激(UCS)を与える(Pathway system (Medoc社製))ことにより運動による恐怖条件付けを再現した。SPRは非利き手の母指球に計測電極をおき、前腕内側に基準電極をおいて測定した。健常成人8名で検証した結果、条件付け後において、運動時は、UCSの呈示が無くとも運動しなかった場合に比べてSPRの出現率、平均振幅がともに有意に大きかった。条件付け前に加えて条件付け後においては、SPRのpeak潜時が有意に短縮していた。以上より、健康成人を対象として、SPRという客観的指標を用いることにより、痛みの恐怖条件付けが、自発的な運動によっておこることを示すことができた。 本モデルの作成によって、近年慢性痛の形成に関与するとされている、Vlaeyenらの(参考)恐怖回避仮説の一部を証明することができた。 本研究によって運動時痛の機序を明らかにする実験系ができたので、今後、本実験系で脳機能画像研究などを実施することによって、痛みによる活動の低下と痛みの慢性化との関連など、臨床で問題となっている病態の解明と治療の開発が可能となる。 (参考)Vlaeyen & Linton, Pain, 2000
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