【目的】解糖系中間代謝産物であるPhosphoenolpyruvate(PEP)の虚血再灌流障害肺に対する保護効果について検討した。【方法】家兎をペントバルビタール耳静脈投与で麻酔し、肺動脈送血・左房脱血の摘出灌流肺標本を作成した。左房脱血管から血液成分を十分に廃棄した後に、physiological salt solution(PSS液)を30ml/kg/minの定流量で再灌流した。PSS液にはHES(5g/dl)、ブドウ糖(100mg/dl)、インスリン(20mU/dl)を加えた。呼吸条件はRR 40/min、TV 6ml/kgとした。主換気ガスに空気を用いたが、換気時のリザーバー内の灌流液のPCO2が40mmHg前後になるように、主換気ガスに純CO2を混入した。標本を虚血再灌流(IR)群、PEP処置虚血再灌流(PEP-IR)群、換気・灌流を中断なく継続したコントロール(Cont)群に分けた。PEP-IR群には安定期に灌流液にPEP(1mM)を前投与した。IR群とPEP-IR群では、30分間の安定期の後、60分間ほど換気・灌流を停止し、その後に換気・灌流を再開した。【結果】潅流液中のブドウ糖濃度は、3群ともに安定期に比べて再灌流60分時に減少したが、3群間で差はなかった。潅流液中のピルビン酸濃度は、3群ともに安定期に比べて再灌流60分時に増加し、PEP-IR群は、他の2群に比べて高値であったが、IR群とCont群の間で差はなかった。潅流液中の乳酸値は、3群ともに安定期に比べて再灌流60分時に増加したが、3群間で差はなかった。 【結論】PEPはピルビン酸に代謝されて肺虚血再灌流障害を軽減したと考えられた。3群間で乳酸値に有意差がなかったのは、IR群でも虚血中に空気により肺に対してPEEP3cm水柱をかけたので、肺の環境がさほど嫌気的環境にならなかったためと考えられた。
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