研究概要 |
小児心臓術後におこる急性腎不全は比較的頻度が高く,発症すると患者の予後は悪くなる。どういう頻度で発症し,どの程度重篤になるかさえよく知られていない。成人では約30-50%の術後患者が急性腎不全を煩うと報告されており,またその腎不全となった患者は死亡率が30 - 50%と非常に予後もわるくなると言われている。まず,小児心臓患者で術後にどういう頻度で腎不全が発症し,どの程度の重症度になるのかを把握することが必要となる。そしてこの腎不全を早期に発見する方法(マーカー)を見つけ出すことが治療計画を立てるうえで非常に役立つ。本研究では,2年間の追跡調査を行うとともに早期発見のマーカーとなり得る尿中NGALを測定した。2年間の追跡で506名の患者のうち330名が急性腎不全と診断された。重症度によって分類するとリスク(急性腎不全軽度)が190名,傷害(中等度)が40名,不全(高度)が100名であった。NGALは約半数の患者で手術直後に測定したが,急性腎不全を予測できるマーカーとはならない結果であった。手術直後のNGALの測定値は,腎不全群 6.3 ng/ml (95%信頼区間 3.4 - 9.2)と正常群 7.2 ng/ml (95%信頼区間 4.0 - 10.3)であり有意差はなかった(p値 = 0.69)。別のマーカーとして,保存した検体で尿中のアルブミンを測定し,手術直後の尿中アルブミン量が腎不全の発症と相関することが認められた。非腎不全群 21.8 mg/L, 軽度腎傷害群 31.9 mg/L, 中等度傷害群 36.3 mg/L, 高度傷害群 83.5 mg/Lで重症度に比して尿中アルブミン排泄が上昇した。また腎不全の発症は年齢が小さいほど発症しやすいことも判明した。以上より,今後は年齢の小さい小児に対してアルブミンを測定しつつ効果の期待できる治療を適応する研究が必要である。
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