研究概要 |
われわれは「痛み関連情報伝達物質・サブスタンスP(SP)がニューロキニン1(NK1)受容体を介して血栓形成を促進する機構を解明する」ことを目的として本研究課題を遂行している.平成23年度には以下の成果が得られた. 1,静脈血管モデルの凝固性閉塞への対応.スライドガラス内に分岐した流路からなる静脈モデルを作成している.この流路全体がヒト血漿の凝固活性によって閉塞せず,かつ,細胞周囲で凝固活性が亢進する溶液組成を検討した.血症濃度を1%に希釈することで長時間の灌流を観察できた. 2.フローサイトメトリー(FACS)を利用した細胞周囲凝固活性の確認.上記の血漿濃度で単球由来の凝固活性が発生することを確認した.FITC標識したフィブリノーゲンを血漿と単球を含有する溶液に加えると,FITC蛍光を有する単球より小さなサイズの粒子(マイクロパーティクル,MP)が発生した.MPの発生はヘパリンの添加で抑制されたため,凝固活性を有する単球由来のMPが,内因系凝固をトリガーに発生したと考えられた.またこのMPが組織因子活性を有することも分光光度計を利用して確認した.ケモカインの一種CCL5はMPの発生を増加させ,SPはその作用をさらに増強した. 3.完全長NK1受容体を強制発現させた単球の組織因子活性の確認.単球系細胞THP-1に完全長NK1受容体を強制発現させ顕微鏡で確認すると,同受容体を持たない細胞群と比較して,MPが多く発生していた.またそのMPが組織因子活性を有していることを確認した. 本年度は,管腔内血栓成長の機構を説明するために必要な分子薬理学的検討を中心に研究を進めた.上記実験により,SPが単球依存性に血液凝固を亢進することが確認できたため,血管モデル内で発生する血栓のサイズにこのメカニズムが中枢的な役割を演じているかどうかを次年度に確認する予定である.
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