研究概要 |
(目的と背景)癌細胞で活性化される炎症メディエーターは、種々の白血球、特に骨髄単球系の細胞を腫瘍組織にリクルートする。癌組織に誘導されるマクロファージは腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage, TAM)と呼ばれ、癌の増殖や浸潤にも促進的に働く。また抗腫瘍免疫を抑制する作用があることもわかっている。腫瘍内のマクロファージの量と不良な予後に相関があるが、前立腺ラテント癌から微小癌をへて,顕在癌に至る過程で炎症、特にマクロファージとの関係を調べた研究は見当たらない。病理解剖で発見された前立腺ラテント癌には種々の程度に炎症細胞が浸潤していることを確認している。マクロファージがラテント癌や微小癌にどの程度含まれているか、それが癌細胞にとって有利あるいは不利に働いているのか、癌の悪性度とマクロファージの量との相関など臨床病理的事項を明らかにする。臨床癌手術標本(顕在癌)を用いて同様のことを行い、微小癌との違いを明らかにする。また癌の微小環境における癌細胞とマクロファージの相互関係を培養条件で検討する。 (結果)1)ラテント癌に浸潤する炎症細胞のうちマクロファージの割合は、免疫染色(CD68)を行ったところ非常に少ないことが判明した。そこで臨床検体を用いた研究を一旦中断し以下の実験を進めることとした。 2)マクロファージは癌細胞の微小環境を構成する要因の一つである。癌細胞との間でTGFβ、TNFα、IL-6などの増殖因子やサイトカインをやりとりし癌細胞の維持、増殖、浸潤、転移を引き起こすことが知られている。そこで前立腺癌細胞PC3にTGFβを長期処理し微小環境における癌細胞とし、このPC3細胞とマクロファージのモデルである、THP-1・マクロファージ様細胞を共培養することで微小環境の一端を再現した。その後THP-1・マクロファージ様細胞からのサイトカイン産生変化を調べ、癌細胞が及ぼす影響を見た。癌細胞の増殖、浸潤、転移に関わるとされるIL-6、TNFαのTHP-1・マクロファージからの産生が、TGFβ長期処理PC3との共培養で低下した。TGFβは一般に炎症を促進、悪化させる作用があるが条件によっては炎症性細胞の抑制に働く場合があることが示唆された。
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