膀胱癌のBCG注入療法では、生菌BCGの方が明らかに有効性が高いことが知られている。このことはBCGの感染標的が膀胱癌の制御に有用な役割を持つことを示唆している。詳細な解析の結果、BCGの感染標的は樹状細胞(dendritic cells: DC)、ことに腫瘍内に存在するDEC-205分子陽性のDCであることが判明した。通常DCは体表面に配置され体内に侵入した異物や体内で発生した腫瘍等を監視するが、自身が癌化することは無いため、細胞外より取り込んだ腫瘍由来の癌抗原はクラス II MHC分子を介して提示され、CD4陽性のヘルパーT細胞がそれを認知する。従って、腫瘍を認識排除する特異的キラーT細胞(cytotoxic T lymphocyte: CTL)を誘導するための癌情報は提示されない。ところがこのDEC-205陽性DCは、腫瘍細胞より捕捉採取した癌抗原分子由来のペプチド断片を、クラス I MHC分子を介して”Cross-presentation”し、CTLを活性化する能力を有する。そこで末梢血由来のDCに生菌あるいは死菌BCGを短時間作用させDC亜群の変動をみたところ、DEC-205陽性DCが選択的に活性化されることを見いだした。ただしこの際、生菌BCGで処理したDCは、その毒性のため細菌量に一致して傷害され、結果としてDC細胞数は減ってしまう。そこで、毒性を有するBCGではなく、その亜成分であるミコール酸(MA)やリポアラビノマンナン(LAM)によってこのような選択的なDC亜群の活性が誘導されるかを検討したところ、LAM容量依存性にDEC-205陽性DCが選択的に活性化され増加した。一方、腫瘍と直接接触する上皮内DCはランゲルハンス細胞(LC)であることから、LCに対するMAならびにLAMの作用をDCと比較検討するため、本研究では末梢血からLCを誘導する方法を確立した。
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