【研究目的】 腹腔鏡手術における剥離操作に注目し操作中の鉗子先端に加わる力を計測するシステムを作成し、剥離技能分析を目標とし、操作中に術者が加える力の方向について評価を行った。【方法】死体豚の腎動脈から周囲脂肪組織を剥離する際の、利き腕における鉗子先端作用力の計測を行った。対象は腹腔鏡手術熟練者10名(腹腔鏡手術執刀数、80例~750例 )、習熟者10名(20例~40例)、初心者10名(2例~5例)とした。鉗子先端が臓器に触れてから離れるまでの1回の剥離操作をワンストロークとし同操作を10回ずつ行った。評価項目は、ワンストロークに要した時間(T)、垂直力(VF)及び水平力(HF)がそれぞれピークを迎えるタイミングTPV(timing of peak vertical force)、TPH(timing of peak horizontal force)(ワンストロークの剥離時間を100%とし垂直力、水平力がピークとなるまでの時間を%表示)とした。また、症例経験数と、TPHとTPVの差の相関関係の評価および、全剥離操作における剥離作用力の経時的推移の評価を行った。【結果】 Tは、熟練者群が最も短い結果となった。TPVは3群ともTPHより早いタイミングでピークを迎え、さらに熟練者のTPVは、習熟者、初心者より有意に早くピークを迎える結果となった。また、手術経験数の増加に伴い、TPHとTPVの差の値は大きくなる傾向にあった。さらに3次近似曲線を用い剥離作用力の経時的推移の評価を行ったところ、手術経験数の増加に伴いVFがピークを迎えるタイミングが早くなる結果となった。【考察】熟練者は、剥離開始時点の剥離点をずらさず、かつ、鉗子が剥離部位より奥へ進みすぎないように操作を行っていると推察することができ、熟練者が注意して行っている安全な剥離操作の力の加え方を理解することが可能であった。
|