現在の日本において、間違いなく少子高齢化問題は最も深刻な社会問題の一つである。一般に、先進国では社会生活が高度になるほどヒトの生殖能力は低下するとの仮説があり、ヨーロッパの統計では成人男性の平均精子数は年々減少傾向にあると指摘されている。その少子化を少しでも救う方法の一つとして今日、不妊治療が存在する。 今年度、私はまず生殖機能の解明という点から男性不妊に主眼をおいて解析を進めた。マウスUbr2遺伝子は2003年に同定されたUbr遺伝子ファミリーの一つであり、Ubr2遺伝子のノックアウトマウスはメスにおいてはそのほとんどが胎生期に死亡する。しかしながら、そのオスは不妊を呈することを除けば全く正常である。その精巣は肉眼的には全く異常を認めないものの、減数分裂が精巣内で起こらず精子細胞を全く認めない。そこでヒトにおいてもヒトUBR2遺伝子が精子形成に関与しているのではないかとの仮説のもとに解析を行った。まず組織学的に減数分裂停止に起因すると診断された日本人無精子症患者30名と正常コントロール80名のGenomic DNAを用いてヒトUBR2遺伝子の全てのcoding regionにおいてPCR法、ダイレクトシークエンス解析法を用いてmutation解析を行った。解析の結果、明らかなmutationは検出されなかったが、coding region内に4つのsingle nucleotide polymorphism(SNP1-SNP4)を検出した。患者群とコントロール群においてこの4つのSNPにおいて解析したところ、SNP4においてゲノタイプ、アレルの出現頻度ともに有意な差を認めた(p<0.001)。本研究により、ヒトUBR2遺伝子がマウス同様精子形成過程、特に減数分裂において重要な役割を担うことが示された。
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