研究概要 |
卵膜を介した胎児・母体間クロストークの分子機構の解析として、平成24年度は、主に早産発症のメカニズムの解明に向けての研究を行った。胎児ファイブロネクチン(fetal fibronectin, fFN)は胎児組織より産生されるファイブロネクチンであり、膣分泌物・子宮頸管粘液より検出されるfFNは従来より早産の予知マーカーとして広く使用されている。しかし子宮内環境におけるfFNの機能はこれまで明らかではなかった。Mogamiらはヒト初代羊膜細胞にfFNを投与すると、羊膜間葉細胞でコラーゲン分解酵素であるマトリックスメタロプロテナーゼ(MMPs)が増加することを発見し、コラゲナーゼであるMMP1、およびゼラチナーゼのMMP9の遺伝子発現および酵素活性の上昇をin vitroで確認した。さらに羊膜間葉細胞ではプロスタグランジン産生の律速酵素であるcyclooxygenase-2 (COX2) mRNA がfFNにより増加し、培養上清中のPGE2濃度が有意に増加することを報告している(Mogami H, JBC, 2013)。一方、止血剤のトラネキサム酸は線溶系を阻害して止血効果を発揮するが、抗炎症効果も併せ持つことが知られている。これに基づき、初代羊膜間葉細胞をトラネキサム酸で30分前処理した後、fFNを投与すると、MMP1, MMP9, およびCOX2mRNAの上昇が有意に抑制されることを発見した。同様にエンドトキシンのLPSによるMMP1, MMP9, およびCOX2 mRNAの上昇もトラネキサム酸により有意に抑制された。この詳細なメカニズムは現在まだ解析中であるが、これらの基礎データはトラネキサム酸が羊膜のコラーゲン分解、ひいては前期破水を抑制し、あるいはPGE2の増加による子宮頸管の熟化や子宮収縮を阻止し、早産の新たな予防・治療法へ発展する可能性を示唆するものである。
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