研究概要 |
本研究の目的として、胎児・新生児における脳障害・脳保護の基礎的メカニズムやそれに影響を与えるさまざまな要因に対して、脳内の甲状腺核内レセプター(TRa,TRb)、甲状腺脱ヨード酵素(Dio2,Dio3)などがどのように関わっているのかをラット新生児脳障害モデル、胎児・新生児脳に特異的な脳障害・脳保護のメカニズムを明らかにすることである。また、最終的には妊娠中の母体・胎児甲状腺機能のコントロールの重要性をメカニズムの面からも確認し、甲状腺ホルモン関連分子の操作を用いた胎児・新生児脳障害予防・保護法の開発をめざす。 胎児・新生児期において、短期間の低酸素刺激が以後の致死的な低酸素障害によるダメージを軽減するということが報告されている。この短期間の低酸素刺激のことをHypoxic-preconditioning(HPC)といい、高い神経保護作用を有する。我々は、分娩時に発生する低酸素虚血脳障害を軽減するべく、ラットを用いてこのHPCの脳保護作用に脳内のTRa,TRbやDio2,Dio3などの甲状腺関連物質との関わりを検討するとともに、その転写産物であり細胞骨格を形成しているMyelin basic protein(MBP)やa-tubulinの増減も検討した。 ラットでは、人間の正期産時(分娩時期に相当)が生後7日に相当すると言われている。 そこで、分娩時以前である生後6日目のラットにHPCを試行し、生後7日目にTRa,TRbやDio2,Dio3のmRNAレベルとMBPとa-tubulinのタンパクレベルを調べた。HPCの方法としては、(Vannucci et al2002)のモデルを採用し、酸素8%、37℃、2.5時間をHPCとし、酸素22%、37℃、2.5時間をコントロールとした。 結果として、HPCにおいては、DiO2とTRa・TRbの有意な増加とDio3の有意な減少を認めた。また、MBPとa-tubulinはHPCが有意に上昇していた。このDio2というのは、甲状腺プロホルモンを活性型ホルモンに変換する酵素であり、Dio3は逆の作用をもつ。即ち、HPCによって甲状腺の活性型ホルモンとレセプターを増加させ、その転写物であるMBPやalpha-tubulinを増加させることにより細胞骨格の強化を介した神経保護に寄与していると考えられる。
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