1. 単一細胞DNAの2重鎖切断測定に際し、従来汎用されてきたComet法、DNA断片ゲル内拡散試験(dispersion test)は実験条件に誤りがあるため測定感度が低いことを明らかにした。新たにDNA2重鎖切断の初期段階を定量的に検出し得るsingle cell pulse field gel electrophoresis (SCPFGE)を報告した。核内でDNAを固定しているプロタミン、nuclear matrixの両者を酵素分解しないと偽陰性を生じる。非運動精子のほとんどはDNA切断陽性を示し、運動精子を選択的に分画して検査対象としないと、偽陽性を生じることが明らかとなった。 2. Comet法はDNA鎖の片側開裂の検出にアルカリComet法を用いている。項目1で示した核内DNA固定タンパク質の酵素分解の有無で泳動挙動が全く異なり、Comet法で用いるアルカリ条件ではアーティファクトによる偽陽性が生じることを明らかにした。 3. dispersion testは電圧を印加することなく、アガロース網目構造内を微小なDNA断片が拡散する現象を観察する。このように高度に断片化が進行した精子はほとんどが非運動精子であり、感度設定に誤りがあることを明らかにした。これまで不妊治療において精子DNA損傷と受精障害、流産、先天異常との関連解析は上述したComet法、dispersion testにより検討されてきたが、両者ともDNA断片化が高度に進行した細胞を検出しているために臨床的意義が低く、SCPFGEを用いた高感度分析により全ての項目を再検討する必要がある。 4. SCPFGEを用いた高感度分析により、培養環境の酸素濃度を厳密に管理することが細胞内DNA保護に重要であることを報告した。
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