研究課題/領域番号 |
22591861
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
川口 龍二 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50382289)
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研究分担者 |
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
吉澤 順子 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (80526723)
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キーワード | 卵巣明細胞腺癌 / HNF-1beta / マイクロアレイ / 細胞周期 / 酸化ストレス / 卵巣子宮内膜症性嚢胞 / 癌化 / チェックポイント機構 |
研究概要 |
前年度の研究により子宮内膜症からの卵巣癌、特に明細胞腺癌の発生に関して転写因子HNF-1betaが重要な役割を担っている可能性が示された。さらに明細胞腺癌の特徴である抗癌剤耐性についてもHNF-1betaの関与が疑われた。HNF-1betaをsiRNAにて一過性ノックダウンしたところ、SPP1、CFLAR、BCL2L1、CCND1、UGTIA1、ANXA4の発現量が、2~5割へと著明に減少した。また、HNF-1betaのノックダウンによりアノイキス抵抗性の低下、浸潤能の低下、抗癌剤抵抗性の低下、抗アポトーシス能の低下を認めた。また、発癌に関してはHNF-1beta(+)細胞株ではDNA損傷のチェックポイント機構に異常をきたしていた。チェックポイント機構の異常は、遺伝子変異監視機能の低下をきたし、腫瘍発生および進展の原因となりうる。その機序についてはHNF-1betaがchk1タンパクに作用していることが示された。主要なチェックポイントタンパクであるchk1はリン酸化することにより活性化し細胞周期を停止させる。HNF-1beta(+)細胞株では、DNA障害性薬剤の添加により持続的なchk1タンパクのリン酸化をきたし、細胞周期の停止の延長を認めた。持続的なチェックポイント機構の活性化はアポトーシスへの誘導が阻害されるだけでなく、遺伝子不安定性につながる。これが子宮内膜症からの癌化機序の一つの可能性がある。今後はchk1タンパクをターゲットにした新規治療法の開発とともにHNF-1betaによるchk1タンパクの制御機序を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
子宮内膜症、明細胞腺癌における特徴的に発現する遺伝子、タンパクを網羅的に解析した結果、転写因子HNF-1betaが癌化における重要な因子であることが判明した。さらにHNF-1betaはDNA損傷チェックポイント機構におけるchk1タンパクのリン酸化に影響を及ぼしていた。これは遺伝子不安定性をもたらし卵巣癌発生に関与している可能性ある。またchk1タンパクをターゲットとした新しい治療法の開発につながる。
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今後の研究の推進方策 |
HNF-1betaがチェックポイント機構の主要な因子であるchk1タンパクに持続的なリン酸化をもたらし、発癌に関与する可能性が示された。今後は、HNF-1betaが持続的なリン酸化をきたす機序の解明が必要である。これまでチェックポイントタンパクの持続的なリン酸化をもたらす因子についての報告はない。可能性のひとつとしてHNF-1beta(+)株ではリン酸化chk1を分解するproteasome系に異常をきたしていることが考えられる。今後はこの観点からproteasome inhibitorを使用した実験を行い、HNF-1betaによるproteasomeへの影響を明らかにする。
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