研究課題/領域番号 |
22591862
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉田 昭三 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (40347555)
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研究分担者 |
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
大井 豪一 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (10283368)
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キーワード | 卵巣明細胞腺癌 / HNF-1beta / chk1 / chk1 inhibitor / 細胞周期 / ノックダウン / Bleomycin / チェックポイント機構 |
研究概要 |
子宮内膜症性嚢胞内では、貯留する血腫の過剰な「鉄Fe2+」のフェントン反応から活性酸素が放出され、小胞体や細胞に酸化ストレスを起こし、細胞およびDNAは破壊される。これまでこの過酷な環境下でなぜ異所性子宮内膜細胞が生存できるのか、さらにはなぜ癌化に至るのかは不明であった。これまでの研究で、子宮内膜症からの癌化が疑われている卵巣明細胞腺癌細胞に、フリーラジカルを発生させる抗癌剤ブレオマイシンを添加したところ特異な細胞周期像が観察された。ブレオマイシンを添加された細胞はG2期で細胞周期が停止し、細胞死が誘導されなくなっていた。この現象は転写因子HNF-1betaをノックダウンすることにより消失した。その機序について詳細に検討したところ転写因子HNF-1betaが、DNA損傷チェックポイント機構の主要な因子であるchk1タンパクの持続的なリン酸化をもたらしていることが明らかとなった。近年、過剰なチェックポイント機構の発現は細胞死が阻害されるだけでなく、遺伝子不安定性をもたらし癌化につながると考えられている。HNF-1betaは明細胞腺癌だけでなく子宮内膜症細胞においても強く発現している。また細胞内でフリーラジカルを発生させDNA損傷をもたらすブレオマイシンの添加は、子宮内膜症細胞がおかれている強い酸化ストレス環境と類似している。つまり子宮内膜症細胞は酸化ストレスに対してHNF-1betaを発現することにより細胞死を免れ、遺伝子不安定性を引き起こし癌化するという機序が考えられた。今後、さらに研究を進め、酸化ストレスを制御することにより内膜症からの癌化を予防する方法を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
明細胞腺癌の遺伝子のうち酸化ストレスに関与する遺伝子群は過剰発現した遺伝子全体の87%であり、また全体の40%がHNF-1betaのターゲット候補遺伝子であった。つまり、明細胞腺癌の遺伝的特性を決める因子として、酸化ストレスとHNF-1betaが重要な役割を担っていると考えられる。現在、HNF-1betaによるDNA損傷チェックポイント機構の制御を研究中であり、酸化ストレス、HNF-1beta、癌化の関連性をさら解明することができる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は酸化ストレスの原因物質として鉄に注目し、子宮内膜症の癌化の機序を明らかにすることである。活性酸素によるDNA損傷に対してHNF-1betaを過剰発現する明細胞腺癌はDNA損傷チェックポイント機構を制御することにより細胞死を免れている可能性が明らかとなった。今後はHNF-1betaが具体的に制御する遺伝子を細胞周期関連、チェックポイント機構関連に注目し検索していく。現在、3つの異なる明細胞腺癌細胞株を用いて、HNF-1betaのノックダウンにより変動した遺伝子をマイクロアレイで網羅的に検索している。ここからHNF-1betaが関与する詳細な癌化の機序が明らかにしていく.
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