研究課題
子宮内膜症性嚢胞内では、貯留する血腫の過剰な「鉄Fe2+」のフェントン反応から活性酸素が放出され、小胞体や細胞に酸化ストレスを起こし、細胞およびDNAは破壊される。これまでこの過酷な環境下でなぜ異所性子宮内膜細胞が生存できるのか、さらにはなぜ癌化に至るのかは不明であった。卵巣明細胞腺癌細胞に、フリーラジカルを発生させる抗癌剤ブレオマイシンを添加したところ、ブレオマイシン添加細胞はG2期で細胞周期が停止して細胞死が誘導されなくなり、この現象は転写因子HNF-1betaをノックダウンすることにより消失した。その機序について詳細に検討したところ転写因子HNF-1betaが、DNA損傷チェックポイント機構の主要な因子であるchk1タンパクの持続的なリン酸化をもたらしていることが明らかとなった。細胞内でフリーラジカルを発生させDNA損傷をもたらすブレオマイシンの添加は、子宮内膜症細胞がおかれている強い酸化ストレス環境と類似する。つまり子宮内膜症細胞は酸化ストレスに対してHNF-1betaを発現することにより細胞死を免れ、遺伝子不安定性を引き起こし癌化するという機序が考えられた。しかし、フリーラジカルに対する細胞側の応答として細胞周期を止めるだけでは生存できる可能性は低いと思われる。近年、CD44のバリアントアイソフォーム(CD44v)はヒトの様々ながん細胞において特異的に高発現し、増殖や浸潤、転移と密接に関係し、単なる接着因子ではなく様々なシグナル伝達に関わることが解明されてきた。子宮内膜症、明細胞腺癌におけるCD44vの発現を比較したところ、子宮内膜症におけるCD44v9の発現低下により、ROS抵抗性が減弱し、発癌リスクが高くなる可能性が示唆された。今後、さらにROSに関与するマーカーの免疫組織学的検討を加え、発癌のメカニズムが明らかになれば明細胞腺癌に対する新規治療につながる。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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Oncology letters
巻: 2 ページ: 591-597
10.3892/ol.2011.316