研究概要 |
卵巣癌,子宮癌をはじめとする婦人科系腫瘍では抗癌剤治療が欠かせない.しかし抗癌剤の選択は過去の臨床治験成績に基づいて行われていると言っても過言では無く,症例ごとに異なる薬剤への腫瘍細胞の反応性や抗癌剤効果の発現機序は未解明の点が多い.われわれは抗癌剤の主たる殺細胞機構の一つとされる抗癌剤によるDNA傷害を,コアヒストンの一つヒストンH2AXについて,DNA断裂を生じた際に特定部位がリン酸化されて生じるγH2AXの特異抗体を用いて検出した.この方法はアポトーシス細胞の同定にも利用可能であり,抗癌剤によるDNA傷害からアポトーシスに至る過程を調べられる点で有意義であるにもかかわらず,われわれのグループ以外ではほとんどなされておらず個々の腫瘍細胞株および様々な抗癌剤において調べられる点がユニークである.その結果現在までに,各抗癌剤が細胞に及ぼす効果は同種類の腫瘍であっても細胞ごとに反応が異なること,抗癌剤の作用機序は従来解明されているもののみでは無いという結果が得られ,個別化治療の重要性が改めて指摘できた.さらに23年度はこの方法によるDNA傷害やアポトーシス細胞の検出を通常の病理組織検体や細胞診検体にも応用した.現在抗癌剤や放射線による治療効果はこれらの標本において形態学的変化を指標になされており客観性に欠けている.病理組織検体ではHE切片を作製するパラフィン切片において,細胞診検体では液状化細胞診や塗抹検体をパパニコロウ染色で鏡検し写真撮影後にカバーグラスを剥離し,それぞれγH2AXの検出を行った.その結果,形態的に治療効果のみられる細胞は殆どがγH2AX陽性を示しDNA傷害が裏付けられた.また形態的に治療効果が明かではない腫瘍細胞においても高度のDNA傷害が認められるものが多数存在していた.従って当手段は,治療効果をより客観的に評価する指標となり得ると考えられた.
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