本研究では癌標的分子であるHB-EGFの特異的抑制薬であるCRM197の臨床応用に向けて、CRM197の抗腫瘍効果を期待することのできるHB-EGF以外の遺伝子情報を明らかにし、CRM197適応基準判定のための診断的ミニアレイの開発を目的とする。そこで、本年度はHB-EGF高発現卵巣癌細胞株を用いてshRNA発現ライブラリーによるHB-EGF発現亢進に関わる遺伝子群(CRM197薬剤耐性機構に関わる遺伝子群)の探索を行った。まず、shRNAライブラリー導入細胞をヌードマウス皮下に播種し、腫瘍形成後にCRM197を投与した。CRM197投与後にも増大してきた腫瘍からRNAを抽出し、shRNAライブラリーを導入していない細胞をコントロールとしてcDNA発現アレイによる解析を行った。最終的にHB-EGF発現亢進に関わる遺伝子群としてEGFRやHER2、AKT、PPARγや他の転写因子(特許のため遺伝子名は伏せさせていただく)が抽出された。最終的にHB-EGF高発現卵巣癌細胞株に対して、上記で抽出された遺伝子の発現を抑制し、CRM197に対して抵抗性を示すことができた遺伝子をCRM197薬剤耐性機構に関わる遺伝子として同定した。来年度はパクリタキセルを用いて同様の実験を行うと同時に、ヒト卵巣癌組織より抽出したRNAを用いてHB-EGF発現亢進と上記のそれぞれのアレイによる遺伝子発現解析を行い、パクリタキセルとCRM197の治療の有効性を診断する遺伝子を絞り込み、CRM197適応基準判定のための診断的ミニアレイを作成する。
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