ラットの聴こえの開始(Hearing onset)は、生後12日(P12)頃であるので、それ以前の仔ラットに内耳毒性をもつ薬剤の、アミノグリコシド系抗菌薬(アミカシン)を連日全身投与し、内耳障害を生じさせることで先天聾モデルを作成した。聴覚中枢内には内耳から大脳皮質に至るまで、トノトピシティー(周波数帯)が存在するが、下丘においてその特定周波数に反応する層構造がきわめて明瞭に識別される。そこで、正常ラットと先天聾モデルラットにおいて蝸牛電気刺激を行い、下丘中心核での誘発電位を比較検討した。正常ラットでは誘発電位のピークは下丘中心核の中央部にみられたが、先天聾モデルラットではそのピークは下丘中心核の浅層(通常では低周波数帯)に移動した。さらに、先天聾モデルラットでは下丘中心核背深層の高周波数帯の誘発電位が減少した。以上から、本先天聾モデルラットにおける実験では、先天聾において蝸牛電気刺激でみられる下丘の誘発電位に変化が生じており、トノトピシティの幅の縮小や高周波数帯の反応低下などが起きることが明らかとなった。 近年、先天聾小児の人工内耳手術が増加し、手術時期も低年齢化が進んでいる。先天聾における聴覚中枢の発生が正常と比べてどのように変化するか似ついて、その一端を解明することができた。聴覚中枢の正常発生と、先天聾によっておこる聴覚中枢の変化について知ることは、先天聾小児の人工内耳手術後に、より良い「聴く力」を獲得する上で重要であり、人工内耳医療の今後の可能性を探ることにつながるものである。
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