研究課題/領域番号 |
22591880
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
前田 幸英 岡山大学, 大学病院, 助教 (00423327)
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研究分担者 |
福島 邦博 岡山大学, 大学病院, 講師 (50284112)
片岡 祐子 岡山大学, 大学病院, 助教 (10362972)
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キーワード | 急性感音難聴 / 音響外傷 / c-Jun / MAP kinase / siRNA |
研究概要 |
平成23年度には、マウスにc-Jun siRNA発現プラスミドを鼓室内投与し、120dBの騒音に2時間暴露した後1時間後に蝸牛を採取し、ウエスタンブロット法にてc-Jun発現量を検討したが、当初予想したc-Jun発現量の抑制は得られなかった。そこで、上記の騒音暴露に・よる急性感音難聴モデルで、c-Junおよびc-Junをリン酸化する酵素であるJNK,JNKを含むMAPキナーゼ群の蛋白であるMEK1, ERK1/2, P90 RSK, P30 MAPKの総蛋白量およびリン酸化蛋白量の変化を経時的に検討して、siRNA等による治療戦略に適した新たな標的分子の検索を行った。騒音暴露前(コントロール)、騒音暴露直後、3時間、6時間、12時間、24時間、48時間にMultiplex法にて上記の蛋白質の定量をおこなったところ、Phospho-JNKは暴露後3時間(コントロールレベル[100±7.3% ; Mean±S.D.]と比較して167.2±18.1%)をピークとして増加していた他、48時間後(185.4±13.8)にもピークをみとめた。Phospho-c-Junは3時間(302.3±14.8)、12時間(335.2±31.2)をピークとする2峰性の増加をしめした。Phospho-MEK1は3時間(214.4±13.3), Phospho-ERK1/2は6時間(318.9±18.4), Phospho-p90 RSKは3時間(229.3±18.2), Phospho-p30 MAPKは48時間後(216.3±14.2)をピークとする増加をしめした、又Phospho-p30MAPKは3時間後にも有意な増加(117.4±13.6 ; p<0.01)をしめした。総蛋白量についてはTotal-MEK1, Total ERK1/2, Total-p90 RSKの増加はリン酸化蛋白の増加にともなって有意ではあったものの、いずれも100±20%以内に留まっており、これらの蛋白質の活性化はde novo蛋白合成ではなく主にリン酸化によるものであると考えられた。Total-c-JunはPhospho-c-Junと一致して、3時間(195.7±13.0)、12時間(217.4±6.1)をピークとする増加をしめした。またTotal-p30MAPKもリン酸化蛋白量のピークと一致して3時間後(134.8±11.6),48時間後(159.7±12.2)に増加しており、c-Jun, p30MAPKについてはその活性化にはde novo蛋白合成が主に寄与すると考えられた。急性感音難聴の治療戦略としてはde novo合成により合成される蛋白についてはsiRNAによる遺伝子発現-蛋白合成の抑制は有効で、主にリン酸化のみにより活性化される蛋白については蛋白活性自体の抑制が有効と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の具体的計画であったc-JunをsiRNAで抑制するという手段、結果はえられなかったが、標的分子をc-JunのみならずJNK, MEK1, ERK1/2, p90 RSK, p30MAPKと言ったMAP kinase群一般に拡大することにより急性感音難聴におけるこれらの蛋白群の動態が解明された。JNK, p30MAPKについてはこれらの阻害剤により急性感音難聴を治療する試みもなされている。また、リン酸化蛋白量および総蛋白量を区別して解析することによりMAP kinaseに対する介入による、siRNAを含む治療戦略の方向性もしめされた。MEK1, ERK1, P90 RSKについては本研究であきらかになった動態は他に全く報告のないものである。当初の研究の目的であった急性感音難聴にたいする新たな治療モデルの構築にとって新たな情報は得られたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で確立した騒音性難聴モデルマウスについて、騒音暴露後の聴力の経過を聴性脳幹反応により詳細に検討し、上記のc-Jun, JNK, MEK1, ERK1/2, p90 RSK, p30 KAPKといった蛋白群の量的変化と、聴覚機能の推移との関連を確認する。また、免疫染色により上記の蛋白質の内耳での局在を明らかにし、急性感音難聴病態においてどの様に関与しているか考察することにより、急性感音難聴病態における基礎データとし、新たな治療モデルを構築する。
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