研究概要 |
本年度は研究計画に従い、基礎的検討として正常動物でアクアポリン(AQP)、バゾプレッシン受容体(V2R)、H^+,K^<+->ATPaseの内耳での発現を検討した結果、血管条のみならず、前庭暗細胞、移行上皮など水分輸送に関係する部位でAQP1,2,3やV2Rの発現が認められ、蝸牛や内リンパ嚢と同様に前庭器でもAQPやV2Rが水代謝に関与することが示唆された。さらに前庭感覚細胞や、神経節細胞においてもAQPやV2Rが出現しており、これらが内耳での感覚伝達に関与していると考えられた。また、H^+,K^<+->ATPaseは蝸牛外側壁に存在し、蝸牛でのK^+の循環とEPの生成に重要な役割を果たすこと、前庭暗細胞ではbasal infoldingに一致して存在し、K^+の循環やpHの調節に関与していること、内リンパ嚢では上皮細胞に発現し内耳全体のpHの調節に関与するとともに、蝸牛、前庭神経節細胞での発現により内耳感覚伝達機構に関係していることが示唆された。また、今回、バゾプレッシンの慢性投与により内リンパ水腫モデル動物を作製することができた。さらに、内耳障害の新しい治療薬としてアスタキサンチンが内耳障害の軽減作用を有することをin vitroの系を用いて明らかにした。臨床的検討としては、老人性難聴の患者に、抗酸化剤による治療を長期間にわたって行なった症例を集積し、次年度以降の解析の準備を行った。さらに、高齢者のめまいの特徴、初期対応、薬剤性めまいの特徴などについての総説を一般診療家向けに作成した。本年度の基礎的検討の結果は今回、初めて得られた知見であり、加齢性内耳障害に対する治療を開発する上で重要である。これらの結果は、第29回頭頸部自律神経研究会、第70回日本めまい平衡医学会、AstaReal Symposium2012で発表されたと同時に、4編の論文にまとめられた。
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