代表的ストレスホルモンであるカテコールアミンがβ作用により内リンパ圧を上昇させ、この上昇作用には内リンパ嚢が大きく関与していることが最近のわれわれの研究から明らかになってきた。本研究において内耳内リンパ系におけるβアドレナリン受容体(AR)の関与の詳細を検討した。カテコールアミンがβ作用により蝸牛および前庭半規管の内リンパ圧を上昇させるが、内リンパ嚢閉塞動物(モルモット)では上昇しないことからこの上昇作用には内リンパ嚢が大きく関与していることが考えられる。また、その上昇量は蝸牛の方が前庭半規管より大きいことが示されたが、このことはメニエール病においても蝸牛症状の方が前庭症状より起こる頻度が高いことと関連していると考えられる。ラット内リンパ嚢上皮細胞(中間部)にβ2アドレナリン受容体の特異的な強い発現が認められたことはカテコーラミンはβ2作用により内リンパ嚢直流電位を低下はさせるとする以前の電気生理学的報告と符合するものであった。カテコールアミンが内リンパ嚢のβ2アドレナリン受容体を介してリンパ圧上昇作用を起こすことが示されたことは、ストレスがメニエール病発症、症状悪化に関与しているとの臨床所見に基礎的な根拠を与えるものと考えられる。
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