前庭障害が一側の場合、前庭代償によりめまい・平衡障害は徐々に改善していく。しかし、両側の機能が廃絶されると、もはや代償機転は作働せず平衡障害は存続して改善の期待はできなくなり治療に難渋する。そこで今回、前庭覚に代わる感覚(舌触覚)を通じてバランス情報を伝達することを目的に開発された前庭代替装置を用いて治療を試みた。本装置は頭位の傾きを感知する加速度計を包埋した微小電極(100個)アレイとプロセッサーから構成され、加速度計からの情報をプロセッサーで電気信号に変換して電極に送るしくみになっている。本年度は、本機器の有用性を確かめるために両側前庭障害3例を対象に、患者の舌表面に電極アレイを置いて、舌の触覚で信号がセンターリングされるようにバランストレーニングを試行した。治療評価には日常のバランス支障度を表すDizziness Handicap Inventory (DHI)と動的な体平衡機能を測定するSensory Organization Test (SOT)を用いた。バランスパフォーマンスは3例ともよくなり、DHIは平均72.7から16.7に、SOT scoreは平均37から54.7に、それぞれ改善を示した。感覚代行技術を用いた本装置は、機能が廃絶された前庭を代替する働きを有し、前庭中枢の可塑性を変化させた可能性がある。この効果メカニズムに平衡覚と触覚のクロスモダリティが関与すると考えられる。
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