研究概要 |
両側の前庭機能が廃絶されると、平衡系の回復機構(代償機転)は作働せず平衡障害は存続して改善の期待はできなくなり治療に難渋する。そこで今回、前庭覚に代わる感覚(舌触覚)を通じてバランス情報を伝達することを目的に開発された前庭代替装置を用いて治療を試みた。本装置は頭位の傾きを感知する加速度計を包埋した微小電極(100個)アレイとプロセッサーから構成され、加速度計からの情報をプロセッサーで電気信号に変換して電極に送るしくみになっている。本年度は、本機器の有用性を確かめるために両側前庭障害7例を対象に、患者の舌表面に電極アレイを置いて、舌の触覚で信号がセンターリングされるようにバランストレーニングを試行した。治療評価には日常のバランス支障度を表すDizziness Handicap Inventory(DHI)と動的な体平衡機能を測定するFunctional Gait Assessment (FGA)を用いた。バランスパフォーマンスは7例ともよくなり、DHIは平均58.7から38.4に、FGAスコアは平均12から23に、それぞれ改善を示した。感覚代行技術を用いた本装置は、機能が廃絶された前庭を代替して前庭中枢の可塑性を変化させる可能性が考えられた。そこで次に、この効果発現メカニズムを調べるために、舌先より2cm後方を電気刺激(0.5mA,50Hz)し、回転刺激により誘発される前庭神経核(VN)ニューロン反応に対する影響を調べた。検討した11個のニューロンのうち3個が抑制、2個が増強、5個が変化なかった。VNニューロン活動は舌刺激すなわち三叉神経により制御されている可能性が示唆された。以上より、前庭代替装置の作用メカニズムに平衡覚と触覚のクロスモダリティが関与すると考えられる。
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