今回の研究により、クプラの障害が原因となる末梢性めまいの新概念を確立するのが目的である。ゲンタマイシン(GM)投与、内耳炎、膜迷路障害後のクプラの形態学的、生理学的変化については22年度で研究し、クプラと感覚細胞の形態的・生理的変化について検索した。前庭系の循環障害は末梢性めまいの原因として以前から注目されていたが、実験で証明することは困難であった。平成24年度は23年度に続き血流障害後のクプラの変化と感覚細胞機能との関連を検索した。すでにウシガエルの前庭動脈を遮断する手技を開発し、経験を積むことによって1週まで動物を生存させることができた。クプラ形態の詳しい観察には透過型電子顕微鏡が必要で、前年度に続き資料固定液や緩衝液などに種々の工夫を加えたが、いまだクプラの形態を完全に維持できる固定法を開発するには至っていない。しかし、多数例を長期生存させることでクプラと感覚上皮の障害が光学顕微鏡でより詳しく比較検討できた。障害程度を細かくgrade分類し、血流障害によって感覚細胞の障害が速やかに起き、とくに外側半規管と前半規管に強いこと、クプラにgradeIII以上の形態変化がみられた場合、感覚上皮はすべてgradeIVと高度に障害されること、クプラの障害は軽度でも感覚上皮全体が基底膜から剥離するなど障害が顕著になることが判明した。以上から、基底膜側つまり支持細胞の障害が感覚上皮の障害に大きく影響し、これがクプラの形態変化を惹起すると考えられた。また、GMや膜迷路穿刺などに比べ、血流障害はより高度の感覚上皮障害を起こし急性めまいの原因になることが分かった。動脈硬化、糖尿病などの循環障害リスクのある症例では、可及的速やかに循環動態を改善することが重要である。一定期間経た症例では、感覚上皮の機能回復を期待して漫然と薬物治療を続けるよりも早期に平衡訓練を行うほうが治療として適切と考えられた。
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