研究課題/領域番号 |
22591893
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
鈴木 秀明 産業医科大学, 医学部, 教授 (20187751)
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研究分担者 |
柴田 美雅 産業医科大学, 医学部, 講師 (90512187)
若杉 哲郎 産業医科大学, 医学部, 助教 (20461569)
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キーワード | 中耳真珠腫 / 水素イオン / 骨吸収 / バリア機能 / pH / フィラグリン / 電子顕微鏡 / 共焦点レーザー走査顕微鏡 |
研究概要 |
1)手術時に採取した真珠腫組織にトレーサーとして塩化ランタン(2%)を一定時間負荷しながら2.5%グルタールアルデヒドで固定し、洗浄後に透過型電顕によって細胞間隙に侵入する塩化ランタンを観察した。その結果、角質層、顆粒層、有棘層、基底層に侵入したランタンが確認された。これに対し対照試料として同様の処理を行った正常な頸部皮膚ではランタンの侵入は認められなかった。 2)真珠腫上皮基底層のpHを、リン脂質結合pH指示分子プローブ(fluorescein DHPE;Invitrogen,F-362)を用いて測定した。真珠腫組織および対照試料として真珠腫を伴わない慢性中耳炎の乳突洞粘膜を、25μM fluorescein DHPE中に60分間浸し、共焦点レーザー走査顕微鏡観察下に488nm/458nmにて二重励起を行い、dual excitation ratio法により検量線に照らし合わせてpHを決定した。その結果、真珠腫のpH(6.17±0.54)は乳突洞粘膜のpH(6.67±0.59)に比べて有意に低値であることが分かった(p<0.05)。 3)真珠腫組織に、TRPV1,TRPA1,ASIC,TASK channel,OGR1などの水素イオンセンサー蛋白が発現しているかについて、免疫組織学的に検討したが、発現は認められなかった。 4)pH指示薬を付加した真珠腫上皮のケラチノサイトを酸性溶液で刺激し、細胞内Ca2+濃度の変化を共焦点レーザー走査顕微鏡下で観察したが、変化はみられなかった。 5)真珠腫組織および対照試料として正常皮膚におけるフィラグリンの発現を、免疫組織学的に、さらに定量的RT-PCR法により検討した。フィラグリンはどちらの組織においても角質層に発現していたが、発現パターンと発現量に相違がみられた。 6)以上より、真珠腫上皮ではバリア機能が障害されており、内部の酸性に傾いたpH(水素イオン)が上皮を透過して、隣接する骨組織を脱灰・吸収する機序が考えられた。またバリア機能の障害の原因としてフィラグリンの発現異常が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩化ランタンをトレーサーとして用いた透過性の検討と、リン脂質結合pH指示分子プローブを用いた真珠腫上皮基底層のpH測定では、ほぼ予想通りの結果が得られた。これに対し予想に反して、水素イオンセンサー蛋白の発現は確認できず、真珠腫上皮細胞の酸に対する反応も確認できなかった。しかし当初の計画になかったフィラグリンの発現について調べたところ、真珠腫と皮膚の間に相違が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
真珠腫の病態において、酸性に傾いたpHが骨吸収に関与している可能性は高いが、このpHの変化は真珠腫上皮細胞からの水素イオンの産生/分泌に依存するものではないと考えられる。酸性を帯びた真珠腫内容物の水素イオンが、透過性の亢進した真珠腫上皮を透過して、隣接する骨組織の脱灰を引き起こすと考えたほうが妥当である。皮膚においてそのバリア機能を担っていると報告されているフィラグリンの発現の結果からもこのことが裏付けられる。今後は真珠腫上皮の透過性/バリア機能を中心に検討していくという方針に切り替える。具体的にはフィラグリンの発現についての追試、claudinやtricellulinなどのタイト結合蛋白の発現の検索、in vivoにおける真珠腫上皮のバリア機能の測定、などの方向で研究を展開していくのが良いと考えられる。
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