研究概要 |
1)真珠腫上皮と耳後部正常皮膚におけるフィラグリンの発現を、引き続き症例を増やして、免疫組織染色と定量的RT-PCRにより検索した。フィラグリンはどちらの組織においても角質層に発現していた。定量的RT-PCRでは真珠腫上皮における発現が耳後部皮膚に比べて有意に低下していた。 2)アトピー性皮膚炎など皮膚のバリア機能が障害される疾患で報告されている変異型フィラグリンについてPCR法により検索したが、真珠腫上皮、耳後部皮膚のどちらにも発現は認められなかった。 3)次に真珠腫上皮と耳後部正常皮膚におけるタイト結合蛋白(claudin-1, claudin-3, tricellulin)の発現を、免疫組織染色と定量的RT-PCRにより検索した。免疫組織染色の所見では、これらのタイト結合蛋白はどちらの組織でも基底層~有棘層~顆粒層に発現し、特に顆粒層において強く発現していた。さらにこれらの発現を定量的RT-PCRで検討したが、真珠腫上皮と皮膚との間で差は認められなかった。 4)さらに真珠腫上皮の透過性亢進を実際の生体内で確認するため、中耳手術中に電気的インピーダンスを測定した。インピーダンス測定器は皮膚科領域の臨床検査で使用されている角層膜厚水分計(ASAHI BIOMED・ASA-M2)を用いた。その結果、真珠腫上皮では耳後部皮膚に比べてインピーダンスが低下していた。これにより真珠腫上皮の透過性亢進が実際に生体内で確認された。 5)以上の結果、および平成22~23年に得られた結果より、真珠腫内容物の酸性pHが透過性の亢進した上皮を通過し、隣接する骨組織が脱灰・侵食されるという機序が考えられた。さらにこうした真珠腫上皮の透過性亢進はフィラグリンの発現低下に起因する可能性が推定された。
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