本研究は好酸球浸潤を主体とする鼻副鼻腔炎病態の病態解明と、多機能分子である一酸化窒素(NO)濃度を指標とした新たな診断法と効果的な治療法の開発を目的としたものである。本年度の研究成果の概要としては、1)携帯型NO濃度測定モニタによる口呼気NO(oral FeNO)と鼻呼気NO(nasal FeNO)という新たな指標を確立した。2)副鼻腔粘膜におけるNO産生機構とNO合成酵素(NOS)の分子生物学的解析。好酸球性副鼻腔炎(ECRS)症例における検討では、保存療法群と手術療法群において前向きに継時的なFeNO測定を行った。その結果、治療開始前のECRS例の口呼気FeNO値は正常例に比較して高値であった。一方、鼻呼気FeNO値は両群とも平均値はほぼ同様であった。ECRS症例は加療に伴い、口呼気FeNO値は低下し鼻呼気FeNO値は上昇する傾向が認められた。特に手術療法群ではこの変化が顕著であり、術後6ヶ月後にはoral FeNO値で約20%弱の低下、鼻呼気FeNO値で約80%強の増加と、いずれも有意な変化を示した。また、篩骨洞粘膜と鼻茸組織におけるNOS isoformとサイトカイン発現をreal-time PCR法と免疫組織染色にて検討したところ、対照とした下鼻甲介粘膜に比較してiNOSとIL-5の有意な上昇をECRS症例で確認した。これらのFeNO値の変動と局所粘膜の組織学的特徴には、ECRS自体が有する気道粘膜の過敏性と粘液線毛輸送機能の回復のプロセスが密接に関与していると考えられた。3)定量吸引ポンプを用いた局所NOの測定方法の考案と開発。より詳細に鼻腔各側や副鼻腔各洞のNO濃度の測定を目的とした技術の開発に繋がる基礎的データの収集を行った。
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