本研究は、頭頸部癌における独自のマイクロRNA(miRNA)発現プロファイルをもとに、治療標的として有用な疾患特異的miRNAsを、臨床情報が管理された豊富な臨床検体を用いて解析・選定し、頭頸部癌の新規治療システムを構築することを目的としている。 3年計画の2年目までに、我々は喉頭癌に特徴的な発現傾向を認めるmiRNAsを見出し、さらにはこれらのmiRNAsのうち、上昇傾向を示したmiR-196aに対してはその阻害遺伝子を、減少傾向を示したmiR-133b、miR-375に関してはその模倣遺伝子を頭頸部扁平上皮癌細胞に導入し、その細胞増殖抑制効果を確認してきた。本年度は、in vitroでとくに顕著な腫瘍細胞増殖抑制効果を示したmiR-196a阻害遺伝子の導入によるin vivoでの頭頸部癌治療効果の検討を行った。まず、ヌードマウスの頸部に喉頭癌由来のJHU-011細胞(Johns Hopkins 医科大学のJoseph A. Califano医師より供与)を皮下注射して同所異種移植モデルを作成した。腫瘍径が3mm大となった時点で、週に1度、計3回miR-196aの阻害遺伝子を局注し(治療群)、治療効果を検討した。腫瘍細胞の皮下注射後12週まで追跡したところ、治療群において腫瘍の増殖は継続して有意に抑制された。さらに、頸部リンパ節を摘出してホルマリン固定し、HE染色にて検討すると、治療群においてリンパ節転移の抑制効果も認められた。本研究は、喉頭癌を例に、頭頸部癌に特徴的な発現傾向を認めるmiRNAsの存在の一端を明らかとし、その特徴的な発現署名が、将来的な診断の指標となる可能性を示唆した。さらに、疾患に特徴的な発現傾向を示すmiRNAsの治療標的としての有用性も示す結果を得ており、将来的な頭頸部癌の診断・治療技術の進歩に大いに寄与する成果を得ることができたと考えている。
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