研究概要 |
【目的と意義】一側声帯麻痺症例に対する音声改善手術では甲状軟骨形成術I型±披裂軟骨内転術施行群よりも、声帯レベル差がない症例では声帯内脂肪注入術が空気力学的・音響分析検査上も安定して良好な音声を獲得できることを過去に証明した。しかし、実際の臨床において声帯のレベル差がない一側反回神経麻痺に対する手術は声帯内脂肪注入術と甲状軟骨形成術I型である。この2つの術式での音声改善の違いを比較検討する必要性が生じた。【方法】声帯内脂肪注入術と甲状軟骨形成術I型を施行した症例を対象とし、音声検査として術前後のMPT,MFR,FOrange,SPLrange,PPQ,APQ,NNEaをパラメータとして各術式の手術前・後の音声検査をpairedt-testで比較検討した。さらに、各術式を施行した症例の音声改善度に差があるか否かを比較するため、各パラメータの術前値を調整因子として用いた共分散分析を用いて比較した。【結果】声帯内脂肪注入術と甲状軟骨形成術I型はどちらもすべてのパラメータで術後は術前と比較して有意な改善が得られた。また、各パラメータの術式間における改善度はMPT,MFRの空気力学的検査でのみ声帯内脂肪注入術が甲状軟骨形成術I型より有意に良好な改善を示した。しかし、音の高さ域・強さ域を示すFOrange,SPLrange、音響分析を示すPPQ,APQ,NNEaは改善度に有意差はなかった。【考察】MPT,MFRの空気力学的検査でのみ声帯内脂肪注入術が甲状軟骨形成術I型より有意に良好な改善を示したのは甲状軟骨形成術I型を施行した症例は声帯内脂肪注入術を施行した症例より肺癌による反回神経麻痺症例が有意に多かったためと考えられた。【結論】一側声帯麻痺に対する声帯内脂肪注入術と甲状軟骨形成術I型はどちらも、術後長期に渡って音声改善効果が充分に維持される手術療法であることが確認された
|