研究概要 |
一側声帯麻痺に対する声帯内自家脂肪注入術は麻痺側声帯の形態に応じた注入部位と注入量の工夫が必要であるが、一部では「注入する脂肪の量は4~5mlなどと多すぎてはいけない。」との意見が述べられるようになった。そこで、一側声帯に3.0ml以上の高容積脂肪注入術を施行した症例と3.0ml未満の低容積脂肪脂肪注入術を施行した症例の音声改善効果と麻痺声帯の形態上の改善効果をpaired t-testで、両群の改善度の比較は共分散分析を用いて比較検討した。音声検査としてMPT(最長発声持続時間, MFR(平均呼気流率), F0 range(声の高さ域), SPL range(声の強さ域), PPQ(声の高さの揺らぎ), APQ(声の大きさのゆらぎ), NNEa(規格化雑音エネルギー)をパラメータに用いた。麻痺声帯の形態上の改善効果は、患側声帯弓状変化の程度を示すbowing ratioと声帯突起間間隙の程度を示すwidth ratioをパラメータとして用いた。その結果、すべてのパラメータにおいて両群ともに術後は著明に有意な改善が得られた。しかし、MPTとAPQにおいては一側声帯に3.0ml以上の高容積脂肪注入術群の改善度が3.0ml未満の低容積脂肪注入術施行群より高く、声門間隙が大きな症例には高容積の脂肪注入が必要な症例があり、術後長期に渡って音声と声帯形態上の改善効果が維持されることが確認された。
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