研究課題/領域番号 |
22591931
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
忍足 俊幸 千葉大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40546769)
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キーワード | 糖尿病網膜症 / 神経細胞死 / 小胞体ストレス / c-Jun / JNK / crosstalk / 神経保護 |
研究概要 |
前年度、糖尿病誘導神経細胞死にミトコンドリア依存性経路と小胞体ストレスER stress依存性経路両方が関与することを網膜3次元培養を用いて解析した。すなわち、ミトコンドリアとERの間には分子レベルのcrosstalkがあることが示唆された。そこで今年度、両者の分子レベルcrosstalkと候補の1つとしてc-Jun/JNK経路に注目した。JNKはER stressで活性化されることが知られており、その標的のc-JunはAP-1を形成し、細胞死のシグナルをミトコンドリアに伝えている。 そこでまず、同じ網膜3次元培養で糖尿病ストレスを与え、誘導される神経細胞死にp-c-Jun, p-JNKが関与するかを免疫染色で確認した。糖尿病網膜および高濃度グルコース培養群ではTUNEL陽性率とともにp-c-Jun/p-JNK免疫陽性率が上昇していることが確認された。さらに糖尿病ラット網膜ではp-c-Jun/p-JNKのタンパク量が増加していることがWestern blotで確認された。次に年齢をマッチさせた正常者5眼、糖尿病患者5眼の網膜を単離・固定し、凍結切片を作成、p-c-Jun/p-JNKの免疫染色と変性ニューロンのマーカーであるFluoro-Jade B染色を同時に施行し、FJB陽性+p-c-Jun陽性、FJB+p-JNK陽性細胞数を両者で比較した。人糖尿病網膜の変性ニューロンではp-c-Jun/p-JNK陽性細胞数が正常網膜に比べて有意に増加していることが確認された。このとから、人およびラット糖尿病網膜神経細胞死にc-Jun/JNK経路が関与していることが示唆された。また、前述のした通り、c-Jun/JNK経路はミトコンドリア・ER stress細胞死経路のcrosstalkの候補の1つであり、神経保護的治療戦略における標的部位の1つになりうることが推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病網膜の神経病変、特に網膜神経節細胞RGCの変化は血管病変に先行して起きることが知られている。我々は特に糖尿病網膜における初期RGCの変化を細胞死・軸索変性も含めてRGC neuropathyと称している。我々の最終目標は糖尿病網膜におけるRGC neuropathyがどうして起きるかということと、それをどうやって救済するかという2点である。今年度の研究では特にRGC neuropathy発症のメカニズムに焦点を当てているが、ラットのみならず、人糖尿病網膜においても共通の細胞死メカニズムが同定できていることから、動物実験の結果と臨床でみられる神経病変との間に分子レベルでの共通点を見いだせている。 細胞死のメカニズムが共通していることから網膜3次元培養で有効な神経保護・再生促進因子は人糖尿病網膜においても有効に作用しうることが期待できる。今後はどのような神経栄養因子が網膜3次元培養において有効に作用するかという点に焦点を当てて研究を進めていけばよい。その中で特に有用と思われる因子・あるいは戦略をin vivoのモデル動物へ応用していけば時間や労力・費用(使用動物数)などを節約しながら効率よく糖尿病誘導神経細胞死に対する神経保護・再生治療戦略を確立してくことができると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
網膜3次元培養で糖尿病ストレスを負荷するやり方は大きく分けると3種類ある。1つは糖尿病モデル動物を作成し、その網膜を直接培養、正常網膜培養と比較するやり方である。もう1つは正常動物の網膜を培養し、高濃度グルコースと正常濃度グルコースで培養・比較するやり方である。これらの方法で我々はすでにある程度の結果を出している。それ以外に重要な方法としてAGEを培養液に負荷する方法がある。 AGEはAGE-BSA換算で4-460 ug/mlで糖尿病患者の全身を還流しているといわれており、局所に蓄積すれば神経細胞にも影響を与えることが予想される。実際海馬のニューロンやアルツハイマーの神経変性にAGEが影響を与えることが報告されている。 我々は3種類のAGE-BSA(glucose-AGE-BSA, glycolaldehyde-AGE-BSA, glyceraldehyde-AGE-BSA)をまず低濃度10 ug/mlで培養網膜に負荷し、その神経細胞死・突起再生に影響を与えるかを検討する。海馬のニューロンではglyceraldehydeがよりtoxicな影響があることが知られており、網膜においてどのような影響が出るか興味が持たれる。次いでどのような神経栄養因子がAGE誘導神経細胞死を救済できるかを検討する。また、AGE誘導神経細胞死のメカニズムにどのようか細胞死経路が関与するかを種々の細胞死関連因子の免疫染色を施行し、検討を加えていく予定である。これらの結果を踏まえてin vivoのモデルを用いるときAGEを硝子体に投与するモデルが短期間の飼育期間で結果を求めるときに使える可能性が広がると思われる(通常の糖尿病モデル動物では6か月の飼育期間が必要である)。
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